名前のもう一つの由来

 

 

─ クリエイティブ・カオス(創造的混沌)から生まれた奇跡のアンサンブル ─ 

 

 まずは2つの写真をご覧ください。これがデア・リング東京オーケストラのもう一つの名前の由来です。

 これらは2004年110 日から12日までの3連休に東京・晴海の第一生命ホール(767)で開催された第4回日本マスターズオーケストラキャンプの模様を写したものです。

 この年は私が企画・プロデュースを担当、アンサンブルの真髄を参加者とともに探究するワークショップの試みです。対象はケストラの核ともいえる弦楽器で、講師は長岡京室内アンサンブル音楽監督の森悠子さんにお願いしました。森悠子さんほどバロックから現代音楽、オペラに至るまで、多彩な現場での実践を通じて音楽の核心に迫った音楽家は世界でも稀だからです。

  

 参加者は全国のJAO加盟団体などから80人余、配置は普通は半円形にすると思いますが、参加型のワークショップにしたかったので、なにか工夫はないかとずっと考えていたんです。土壇場で旧知の中野 民夫さん(当時博報堂、現東京工業大学教授)の著書「ワークショップ」(岩波新書)を思い出し、ページを繰ると序章の「輪になって座る」で、円形に座っているいる写真が目に飛び込んできました

 これだ!

 オーケストラはよくクァルテットの拡大形であるということが言われますが、円形でバラバラの配置にしたらクァルテットがあちこちにできることになり、文字通りクァルテットの拡大形になるのでは? これもやってみよう!

 オーケストラにはいろいろなやり方があると思いますが、指揮者の棒、あるいはコンサートマスタ ー、さらにはパートのトップに合わせる、ついていくというのが世界の趨勢だと思います。これに対してこのキャンプでは「演奏者の一人一人の自発性、主体性」を基本に据えたいと考えました。

 そこで、森さんとも相談し、①車座の円形配置を基本にし、②ボウイングは各自が決める、③席はセッションごとに自分の意思で変える、④しかも隣には同じ楽器の人は極力座らない、という今まで の常識とはまったく違う方法を取ることにしました。

  森さんの所属していたフランス放送フィルでは、トップ以外は席は来た順に席を選んでいたということも、席は自由というヒントになりました。

 

 曲目は、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」と、モ ーツァルトの「ディヴェルティメント K.136」の2曲。

 故齋藤秀雄(1902-1974)は弦楽合奏 がオーケストラ、クァルテット、ソロモ含めてすべての音楽の基本と考え、これらの曲で弟子たちを徹底的に鍛え上げました。そこから小澤征爾、秋山和慶、東京クァルテット、堤剛、岩崎洸、そして森悠子さんなど数多くの音楽家が育ち、世界に飛び立って行きました。

 2004年は齋藤秀雄没後30年記念の年ということもあり、この2曲を選んだのです。

  

   セッション毎の席替えは当然ながら大混乱となります。

   キャンプには中野民夫さんに立ち会っていただいていたのですが、「こうい う情況をワークショップではクリエイティブ・カオス〈創造 的混沌〉というのです」という中野さんのアドヴァイスと、森先生の「やってみましょう」精神とが相まって、混乱、混沌 をむしろ楽しむ雰囲気ができ、誰も経験したことがない奇 跡とも思えるアンサンブルが実現しました。

 その響きはホール の隅々にまで溶け込み、輝きと貴品に満ちあふれていました。

 

 この貴重な体験が、デア・リング東京オーケストラの背景にはあるのす。

  

 2017-8-17