間想1.  トレド、奇跡のオルガン

    2017年5月に2週間程スペインに滞在し、たまたまま空いた日に1泊で古都トレドに行ったのですが、そこでまさに奇跡とも言える出会いがありました。

 トレドへはマドリードから新幹線で40分ほどで到着します。宿泊は国営のパラドールParador。トレドを見下ろす丘の上に立っていて、古都が一望のもと見渡せます(写真左)上)。

 特に予定は立てていませんでしたので、ホテルでインフォメーションを手に入れ、当日の催しを見ると、どうやら大聖堂でオルガンのコンサートがあるようなので行ってみることにしました。

 トレドの大聖堂は、エル・グレコの「聖衣剥奪」の絵があることでも知られています。

 

 

 

 

                                         トレド市内の観光をひとわたりしてから、当日券を無事手に入れ、軽食を済ませて大聖堂に入りました。 

入ってまず驚きました。その巨大で荘厳華麗な大空間に!これはすごい教会だ!  

 

 

 演奏が始まりさらに驚きます。

 何と、大オルガン3台と小オルガン1台を、4人の奏者で演奏しているではありませんか。しかも息はピタリと合い、演奏の質もすこぶる高い!

 

 よく見ると大オルガン3台と小オルガンが4台、計7台ものオルガンを曲により色々な組みあわせで演奏しているのです。

  これはただの演奏会ではない!

  次第にパンフレット(写真)のタイトルの意味がわかってきました。“Batalla de Organos” まさに「戦うオルガン」です。

 

 しかも、4人の中に一人日本人がいるではありませんか!

 究極の空間力

 この状況をことばで説明するのはとても難しいので、写真と図でご説明します。

 A,B,Cの3台が大オルガン、D,E,F,Gの4台が小オルガンです。

 トレドの教会の巨大さをわかっていただくために、サントリーホールと並べてみました。

 面積で3倍、容積で6.5倍程あります。

 

 BとCの距離は約21メートル、これはサントリーホールの舞台の幅とほぼ同じ距離です。しかも奏者はお互いに背中を向けています。

 AとBは約30m、AとCは約50m直線距離で離れていますし、しかもAはものすごく高い位置に奏者がいます。

 

   ヴィヴァルディやバッハのおなじみの曲も素晴らしかったですが、新作もあり、4つのオルガンが響き合い、呼応しあって、体に響きの渦が巻き起こります。言葉ではとても言い表せない感動に包まれます。

 いったいどういうように演奏されたのか?

 終演後鳴りやまぬ拍手がおさまるのを待って、今夜の感動を伝えるべく日本人奏者である高野温子さんに挨拶に行きました。そして、まず質問したのはどうやって合わせているのか?という問いです。

 答えは、目では合わせることができないので、耳で合わせていますということでした。

 私の予想通りの答えです。

 私自身、デア・リング東京オーケストラを立ち上げ、指揮者にではなく、耳はもちろん全身の感覚を研ぎ澄まして演奏するアンサンブルに挑戦しているので、まさに我が意を得たり!

 これぞ、究極の空間力!

 

高野温子さんの活躍

 翌日、オルガンの写真や、教会の構造を知りたいと11時ごろに教会に行きました。教会の近くでばったりと高野温子さんとパートナーのマルケス氏に会ったのです。偶然というべきか、奇跡と言うべきか! ちょうど日曜日なので一般客はミサで参観ができない時間でしたが、運良く教会に入れていただくことができました。

 高野さんは、フェリス女学院大学を卒業後、ドイツ、オランダ学び、そこで現在のご主人となるパブロ・マルケス・カラバッヨさんめぐりあいます。マルケスさんは現在はバレンシアのカテドラルの首席オルガニストを務めるバレンシに住んでおられ、高野さんご自身もカテドラルのアシスタント奏者を勤めています。

http://www.atsukotakano.com/bio-organist-japanese-pianist/jap

 

7台のオルガン

 幸いにもお二人にトレドのオルガンについて色々聞くことができました。

 使用されて7台のオルガンはいずれも歴史的に由緒あるオルガンですが、トレドの大聖堂には新作も含めさらに3台のオルガンが付属のチャペルなどにあり、計10台のオルガンを所蔵しているそうです。こんな教会他にあるでしょうか?

 AのEmperador(写真左) は16世紀から18世紀にかけて何度も改装されながら完成しています。まさに、「皇帝のオルガン」です。

 

  BのEchevarría (1755) とCのBerdalonga (1798)は、それぞれラッパ管が大きく張り出しており、まるで大砲の砲列が向き合っているようです。(写真下)

 

 プログラムの表紙の写真(下)はCからB方向を見ていますが、まるで戦っているようですね。これが “Batalla de Organos”の由来です。 

  ↑ 当日のプログラム。バッハ(2,7)、ヘンデル(3)、フレスコバルディ(8)今年

    のテーマによる即興演奏(4,5,6,10)もこのシリーズの呼びもの。

 

 

 アンサブルのコンサートを提案したのはトレドのコンセルバトアールのディレクターのホアン・ホセ・モンテロ・ルイスさんで、2014年にエル・グレコ没後400周年を記念して始まったこの「オルガンの競演」Batalla de Órganosは今年で4年目になるそうです。

 毎回あらかじめテーマを決めた即興を取り入れているのもこのシリーズの大きおな目玉で、この年は15世紀に活躍したカスティーリャ出身のシスネロス枢機卿の没後500周年を記念して行われたので、新作とご紹介したのは実は即興演奏によるもので、今年はシスネロス枢機卿をテーマに即興演奏が繰り広げられたわけです。

 2018年も5月にあるそうです。

 

 スペインのオルガンについては、裸足のピアニスト下山静香さんのコラムに詳しく書かれていますので、是非ご参照ください。

 http://acueducto.jp/201202/musica.htm

  

トレドの教会やオルガンの様子は下記の映像が参考になると思います。

https://www.youtube.com/watch?v=wRPnQS8a00M

 

ヴェルディ:レクイエム ムティ指揮はオルガンAの前で演奏しています。

https://www.youtube.com/watch?v=psr_V3A_ySA

   

 余談ですが、トレドの町は迷路です。ホテルに戻るためタクシーのつかまりやすい広場に行こうとしましたが、迷いに迷いたどり着けません。仕方なくお土産やさんに入って道を聞くとタクシーを呼んであげると言ってくれました。そのおみやげ屋さんで、剣の形のペーパーナイフを買いました。