間奏2.  ミンコフスキ&都響のブルックナー3番

 

 7月10日(2017)に、マルク・ミンコフスキが東京都交響楽団を指揮して、ブルックナーの交響曲第3番を1873年の初稿版で演奏するというので、東京文化会館に聴きにいきました。

 マルコ・ミンコフスキ(1962-)は今年55歳の働き盛り。なんと19歳の若さでルーヴル宮音楽隊(Les Musiciens du Louvre)を立ち上げ、リュリ、ラモー、モンテヴェルディやヘンデルのオペラを積極的に上演して、古楽復興運動の旗手として頭角をあらわし、ロッシーニ、オッフェンバッハ、ビゼー、ワグナーなどのオペラにもレパートリーを広げ、

20135月にはウィーン・フィルにもデビューを果たしています。世界中のオーケストラからも次々に招かれ、都響では2014年にビゼーで初登場(交響曲「ローマ」「アルルの女組曲」)、今回は2015年のブルックナーの0番につぐ3度目の登板です。

 この経歴をみると24歳でウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを立ち上げ、ウィーン・フィル、コンセルトヘボウなどの世界一級のオーケストラの指揮台にも数多く立った革命児、アルノンクールと重なるところがありますね。

 当日、まずはハイドンの102番が演奏されました。都響から透明な響きを基調としたキビキビした演奏を引き出していて、ミンコフスキの指揮者としての能力の高さをいかんなく発揮していました。

 休憩後のブルックナーの3番は、古楽奏法に根ざした演奏とでも言いましょうか、全体的にテンポがすこぶる速く軽快に進みます。一方で東京文化会館の特性もあると思いますが、教会での荘厳なオルガンのイメージは余りというか、まったく感じられません。

 3番の中でも初稿は最も長いですが、ミンコフスキ60分を切るほどで、冗長とも言われるマイナス面をまったく感じさせません。ミンコフスキの面目躍如と言ったところでしょうか?

    参考に初稿によるCDを別表に掲げておきましたが、最速のノリントン盤(61:02)より速かったかも知れません。残響の長いブルックナーゆかりの聖フローリアン修道院教会で収録されたレミ・バロー盤とは何と約89分で30分もの差があります。

 話しを戻して、ミンコフスキの指揮ぶりは繊細ではありますが、しかし、終楽章のコーダを含め、クライマックスに向かう場面では身振りが結構大きく、オーケストラを鼓舞し煽(あお)りに煽ります。都響はその煽りに喰らいついき、管楽器が破綻することはありません。

 見事です! が、弦の圧力がかかりすぎて、軋(きしみ)みがちなところが部分的に感じられたのは気になりました。。  

  演奏が終わるやいなや、観客の熱狂は大変なものでブラボーの嵐! 

  私は拍手の途中で会場を後にしましたが、オーケストラが引っ込んでも拍手が鳴り止まず、ミンコフスキーだけ舞台に呼び出された程だそうです。

 この演奏会での評判はすこぶる高くて、今年前半のベスト・ワンにあげる人もいるくらいです。

 こういう演奏が受けに受けるのはよーくかりますが、私が追い求める至福のバイロイト・サウンドからすると、部分的にではありますが強奏しすぎで、うるさく、あきらかにホールが飽和し、ホールの空間力を超えていたのは残念でした。

 もうひとつ、4楽章では教会のエコー(こだま)の効果を描写する場面がありますが、テンポが余りにも早くて、単に2度打ちしているように聞こえたのは、新鮮とも言えますが、疑問符がつきました。

 とは言え、全体的にはミンコフスキのブルックナー3番に対する古楽的なアプローチはすこぶる新鮮で大いに共感しましたし、都響の演奏力の高さにも大いなる賛辞を贈ります。

 

 オーケストラで実際に演奏した人たちの感想を是非聞きたいものです。


ご参考:

初稿(第1稿 1873) によるCDの演奏時間比較

 

1. ロジャー・ノリントン指揮シュトゥットガルト放送交響楽団

       録音:シュトゥットガルト、リーダーハレ2007年5月 Hänssler CD 93.217

       Total playing time: 61:03

2. ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

       録音:ライプチヒ、ゲヴァントハウス 2010年9月   FIGARO VKJK 1017

       ■Total playing time: 63:08

3. 飯森範親指揮山形交響楽団

       録音:山形、テレサホール 2009年8月 YSO Live OVCX-00054

       Total playing time: 65:06

4. エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団

       録音:フランクフルト 1982年8月 Teldec  WPCS-6043

       ■Total playing time: 65:31

5. シモーネ・ヤング指揮ハンブルク交響楽団

       録音:ハンブルク、ライスハレ 2006年10月 OEHMS CLASSICS OC 624

       Total playing time: 68:38

6. ゲオルク・ティントナー指揮ロイヤル・スコティシュ管弦楽団  

       録音:グラスゴー、ヘンリーウッド・ホール 1998年8月 NAXOS 8.553454

       Total playing time: 77:34

7. レミ・バロー指揮聖フローリアン・アルトモンテ管弦楽団

       録音:リンツ郊外、聖フローリアン修道院教会 2013年8月   gramora 99044

       Total playing time: 89:06