指揮者の役割 ①

 バイロイト祝祭劇場は客席は扇状に広がり壁面は凹凸になっています。

 

 

 指揮者の一番の役割は何だと思われますか?

 徹底的に楽譜を読み込み、その行間までも読み込み、楽曲を徹底的に分析し、その上で指揮者の解釈や意図を、オーケストラに棒や身振りも交えて的確に伝える。

 このあたりを思い浮かばれたのではないでしょうか?

 指揮者の教育も、ここに重点が置かれていると思います。

 

 指揮法というと、指揮の運動を指すことが多いと思います。このことを否定するわけではありません。が、しかし、そもそも基本的な情報は楽譜に書かれているので、逆に指揮者の解釈のし過ぎや、必要以上の動きも含めて音楽を歪めている側面があるのではと私は感じています。。

 

 私が指揮者の役目でもっとも大切なことは、オーケストラと一緒に他にかけがえのない魅力のある固有の響きを作ることにあると考えています。

 もともとオーケストラは。国や地方の民族性や文化に根ざした特色を色濃く備えていました。しかし、演奏技術の目覚しい向上とグローバリズムの台頭が重なり、次第に固有の響きが希薄になったのではないかということを危惧しています。

 

 ウィーン・フィルであればモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー、マーラーなどそもそそ初演している曲も多く、楽員は知り尽くしているわけです。

 また、特殊なケースではありますがバイロイト祝祭劇場のオーケストラは、ワーグナーに魅せられた優れた音楽家達が、ドイツを中心にヨーロッパ各地から夏の期間集まってきます。継続して参加している人が多いので、ワーグナーの楽劇を知り尽くしているわけです。

 ウィーン・フィルはウィーン楽友協会大ホール、バイロイトはオーケストラ・ピットの特殊な機構と、扇状に広がる客席の空間とが一体となって、それぞれのかけがえのない響きは育まれてきました。

 オーケストラの能力は近年飛躍的に上がっています。日本のプロのオーケストラも入るのは相当に難しいです。海外で経験を積んでいる人も多いですし、オーケストラの通常のレパートリーについては、並みの指揮者よりその曲を深く知っています。

 というわけで、私は指揮者の役割で一番重要なのは、オーケストラと共に固有の響きを創ることだと思います。その上で、基本的なテンポや楽曲の大きな流れ、方向性を示すことが次なる役目ではありますが、奏者個々の自主性、自発性を妨げないようにすることが大切だと思います。

 キーワードは空間力です。

6 November 2017